皇海山と鋸山


-『GPSMAP60CSx US版』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成-
※鋸山直下は急斜面の岩のロープ場があります。不慣れな方はご注意ください

 皇海山は半ば憧れの山であった。宇都宮方面や前日光から見るその鋭敏な山姿にはいつも溜息をついていたものである。そんな外見のみならず、栃木県側から庚申山を経て至るルートがとてつもなく長丁場であり、難易度も高い事は栃木の山を歩く者ならほぼ周知の事実。だが、体力も技術も装備も無い自分のような者にも光明がある。群馬側から林道を詰めれば片道数時間の登山となり、一気にハードルが下がってくるのだ。

 アプローチの栗原川林道については事前にネットで予習して覚悟はしていたが、いざ走ってみればさほど悪路でも無い。栃木と福島の県境にある数本の林道に比べれば楽勝の部類だ。距離はこちらも負けてはいない。国道120号の追貝集落より登山口のある皇海橋まで約22Km、平均時速17km/hで標高差730mを稼ぐ林道ドライブも既に山行の一部のよう。車を進める程に山奥へと分け入っている実感が込みあげてくるアプローチであった。

 林道では後続車の気配がまったく無かったが、登山口に到着すると6~7台の車が停まっていた。こんな早朝から皆皇海山狙いとは、流石に栃百、群百、そして深田百名山だけのことはある。

林道途中の案内板 駐車地は案外広い

 立派な登山口の柱の脇より歩き始める。始めは穏やかな林の中の道も、幾度か沢を渡りながら徐々に高度を上げ、歩きにくい涸れ沢を歩く頃になると斜度も増してくる。

穏やかな林を行く 沢を幾度か渡る キリの良い距離だ

 沢の源頭部はちょろちょろ流れる水の中を登り、やがて沢は消滅する。今度はロープが垂れた急登区間となるが、幸いにして足元が乾いているのでさほど苦労することもなく登ることが出来た。部分的に土が剥きだしているので、ぬかるんでいたりすると思いがけない難所となるのは想像に難くない。
 いささか息があがり気味になると不動沢のコルはもう目の前だ。岩と沢と森と、少し仄暗く、抑圧されたかのような空間から見えていた「空の明るさ」。そんな明かりに向かって一投足である。

涸れ沢を進む このあたりで最後の沢音を聞く 不動沢のコル

 不動沢のコルは他の登山者も見当たらない静かな空間。ふと見上げると鋸山の挑発的な鋭鋒が目に飛び込んできた。暫しの休憩の後、まずは皇海山へ続く尾根へと進む。ここからが皇海山登頂の真髄と思いきや、意外に緩やかな登りにいささか拍子抜けだ。途中に、白骨化した巨木が横たわる箇所で眺望が拡がった。

鋸山が頭を覗かせている まずは皇海山へ 巨大な倒木が道を塞いでいる

 ここまで殆ど眺望が無かったせいもあり、思わず足を止めてしばし佇む。少し雲が多いのが残念ではあるが、遠くの峰々が雲の上に浮かび上がる光景もまた一興である。来し方を振り返れば鋸山もまた自分の目線まで迫ってきたようだ。

ここからは眺めが良い 鋸山と同じくらいの高さ

 相変わらず花オンチな自分だが、下の写真の花が群生している箇所を通過すると今度は急登の雨あられ。ロープなどには手を出すまいと思いながらも、ついつい気が付かぬうちに握っている。先程までの慢心も撃破され、休み休み山頂への間合いを詰めた。やがて青銅の剣を見ると山頂が近いことを知る。

バイケイソウ 最後は急登のロープ場 青銅の剣

 山頂直下で後ろから来る登山者の気配があり、そして山頂では休憩中の数人と逢う。生憎の曇り空とあいまり、もともと眺望の良くない山頂は今ひとつ地味な感じだが、あの形の良い山のピークに今立っているという充足感に浸りながら、ザックに忍ばせたテルモスの氷水で喉を潤わせた。
 来た道を取って返し、まずは不動沢のコルを目指す。途中何組かのパーティと交差するが、皆急登の箇所では体力を絞られているようで黙々と登ってくる。中には見ているこちらのほうが気の毒になるような方も居たが、先ほどの自分もきっと同じような状態だったのは間違いない(笑)
 不動沢のコルへ降り立ち、次なるピークである鋸山へ向けて一息入れた。先に休憩をしていた方に声をかけられしばし山談義を交わす。別れしなに頂いた名刺を見てあっと驚いた。なんと、あの有名な山サイトである「安蘇の山塊から」の山とんぼさんであった。
温厚かつ物静かな表情で山を語る山とんぼさんに、「山の大先輩」を感じたのは自分以外にもきっと沢山いる筈である。

 鋸山へは丈の低い笹混じりの道を緩やかに登り返していく。足尾側から鋸十一峰をやっつけるのは夢のまた夢だが、今日はラスボスを背後から襲うようで少し気が引ける。だが、足腰の軟弱なナマクラハイカーな自分にとってこのルートは分相応なチャレンジであろう(笑)

 手前の1901mP脇を通過して一旦下げると、目の前に鋸山の全貌があらわになる。下の写真を良く見ると判るが、山腹にアリのようにハイカーが取り付いているのが見える。
 徐々に核心部に近づくと斜度もきつくなり、振り返ると皇海山が大きい。ガスに覆われたその姿が神々しくも見える程、ここの登りはキツくもあり、また素晴らしくもあるのだ。晴れた日にまた登りたいというのが正直なところだが、まったくのホワイトアウトとはまた違った味わいを堪能出来たことは間違いない。

  鋸山が間近になる 振り返り見る皇海山

 いよいよ難所とされる岩場に到達。「ロープに頼るな」のリボンが垂れているが、ホールドが豊富なので登りはロープに頼らなくても特に問題は無い。下りは多少お世話になったが、指摘の通りロープ上部の結びは確かに老朽化しており、この区間は三点支持が出来ない方は通過しないほうが無難かもしれない。もっとも、古賀志山の中尾根愛好家の方やクライマーなら造作も無い岩だが。

 岩はすぐ終わり、山頂までは再び急登急登。

ホールドは充分にある 徹頭徹尾ロープ場

 鋸山の山頂は先行していたハイカー一名が休憩中であった。皆、百名山の皇海山止まりでこちらに来る人は少ないようである。お互い挨拶にとどまり、もの静かな山頂であったが、どちらからとはなしに口を開いた。

 もともと山屋さんで、単身赴任を期に栃木の山を登り初めたそうだ。男体山、女峰山、太郎山と登り今回は皇海山と鋸山。次回は錫ヶ岳を踏むという。そんな日光の山並みもガスに覆われて今日は眺める事が出来ない。時折、雲の切れ間から頭を出した白根山が見えるが、残念な事に錫ヶ岳の姿は意地悪なガスに覆われて望むことが出来なかった。

奥が庚申山方面、手前は鋸十一峰の一部 再び皇海山

 別れを告げた先行氏の姿がなくなると、静かな山頂に意外に冷たい風が吹く。火照った体に心地よい。食事も済ませて暫く余韻に浸ったら、さぁ自分も下山だ。

 皇海山に向けてテイクオフしてしまいそうな急な斜面を下り、岩場下りは慎重に。途中、明らかに踏み跡の濃い方に引き込まれたが、すぐに気づいて登り返す。上から眺めると、どうしたってこっち降りちゃうよね的な踏跡である。皆間違えるから立派な道になっている。くわばらくわばらである。

 やがて三角錐の根元まで降りれば後は大丈夫。笹尾根の優しさに癒されれば、不動沢のコルから本格的に下山開始だ。

急登を今度は下る番 笹の優しい尾根もある 不動沢のコルより下山開始

 朝来た道を下るだけだが、幾分空が明るくなってきたせいか道を覆う葉の鮮やかな緑が目に眩しい。豊かな広葉樹の森は紅葉の季節にきっと見事な錦絵を描いているに違いない。そんな頃にまた此処を歩いてみたい。そしてその時こそ鋸山からの本来の絶景を目に焼き付けたいとも思う。

紅葉の時期もまた素晴らしいだろう

 無事下山を果たし、ミニクーラーボックスにしまっておいたノンアルコールビールで一人乾杯! 祝、皇海山登頂である。

 立派なトイレを見学した後、帰りの林道はスピードダウンして風景を楽しみながら走った。行程も終わりに近づくほど天気が良くなってくる。山はこんなものさ、と強がってみても詮なき事よ。眺望の女神がまた自分に逢いたがっているなどと妄想すれば登る気力は幾らでも湧いてくるものだ。

立派なトイレのある駐車地 帰りの林道にて 天気が良くなってきた
忽然と舗装区間、すぐにダートに戻る 無事林道から生還した

概略コースタイム 駐車地発(07:16)-不動沢のコル(08:57)-皇海山(09:56)-不動沢のコル(10:38)-鋸山(11:29)- 昼食休憩-行動再開(12:07)-不動沢のコル(13:05)-駐車地着(14:31)

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皇海山と鋸山 への16件のフィードバック

  1. Non のコメント:

     こんばんは。あれ? 私が新しいブログの最初のコメ欄、奪取でしょうか?(汗)
    とりあえず、無事に皇海山への日帰り登頂を果たされて、良かったですね!(^^)
    実際、すごいご謙遜なさっている気がするので、お祝いは申し上げませんが
    (まっちゃんさんなら問題なく登れますよ~的な…笑)、登山口までのアクセスや
    山行過程を考えると、お疲れになっただろうなぁと想像します。お疲れ様でした!

     さて、印象に残ったのは、原生林らしい針葉樹の森が広がる風景。やはり
    いいですね、深山に来たなぁって感じがして。涼しさもあって、帰りたくなくなりそう(笑)
     それと、山とんぼさんとバッタリだなんて! すごいですね~ こうした出逢いもまた、
    忘れられない経験になりますよね。
     あ、お花は「バイケイソウ」だと思います。ひょろひょろっとした花ですよね。

  2. リンゴ のコメント:

    やはり皇海山登頂おめでとうと言わせて頂きます。
    先月某ブログ仲間が山荘泊まりで庚申山、鋸十一峰経由で挑戦していますが、とてつもなく大変なルートで、登山を楽しむというより苦行であったと書いてありました。
    天気が悪くてルートミスもあったという話ですが、下山後はその反省も踏まえて再訪したいと思うほどの印象を残したそうです。

    栗原川林道はとても自分の車では上れそう無いので、どちらにしても難易度高過ぎますね。

  3. 亀三郎 のコメント:

    おはようございます^^
    ブログのお引越しおめでとうございます^^
    そして、皇海山登頂成功も!!
    なので、お祝いの『お蕎麦』、、、食べてるつもりで、、、ズルズルッ ズルズルッ(笑)
    そして
    私のWindows 7 IE10環境で、まったく問題なく閲覧可でした!

    あとでじっくり記事を読みたいので
    再訪しますが、、、最初の林道の距離をお聞きして、、、がく然、、、
    これ、、四駆じゃないと無理じゃないですか?
    わたしの、FF ノーマルタイヤ 運転技術レベルD、、、だと
    横滑りして、谷底に落ちそうです、、、←これ、冗談じゃなく、マジで思ってます(過去の経験から)

    では、また

  4. ケン坊 のコメント:

    こんにちは。
    ブログを引越しされたんですね...無事に移行されたようでおめでとうございます。
    まっちゃんの緻密な企画・立案・実行力が山はもちろんですが、こういう場面にも
    発揮されてますね。
    そうおめでとうと言えば”皇海山・鋸山”の登頂おめでとうございます。
    群馬側から登頂を目指すとは思いも付かなかったです。最初から諦めてましたから。
    でも、群馬側からでも相当の技術と経験と体力と自然への造詣と知識が無いと
    無理のような気がしました...やはりケン坊には(ハッキリ言って)無理ですね!
    それでも別のケン坊がまっちゃんの後ろからコッソリと付いて行けば可能じゃない?
    と囁いているような気がして...>笑<
    拍手です!

  5. mattyan のコメント:

    Nonさん、こんばんは。
    栄えある第一号コメントありがとうございます。
    送信時に足し算するフザケタ仕様ですが今後共よろしくお願いいたします。

    皇海山は今回の裏口入学でも充分楽しめました&ハードだったです。
    足尾側からは流石に自分でも単独はちょっとヤバイかなって雰囲気が満ちていました。

    ネットで知り合った方とリアルで顔を合わせることはよくありますが、山とんぼさんとの出会いはその逆。
    歩いていればいろんなことがあるものです。

    花の名前は「バイケイソウ」なんですね。ありがとうございます。
    早速記事のほうを訂正させていただきますね。

    あ、それからNonさんと他の皆さんにもお願いしたいのですが、このブログ、ちゃんと表示されてますか?
    以前のブログのように写真が三枚横にちゃんと並んでいるかどうかというのが気がかりなんです。
    もしおかしな表示が他にもあったら教えて下さい。よろしくお願いします。

  6. mattyan のコメント:

    リンゴさん、こんばんは。

    栗原川林道なんですが、結構底の低い車が入っていました。
    距離がかなり長いので車の傷みなどを考えるとお勧めできませんが、深い轍や大きな石がなくて比較的フラットダートが多いので、四駆じゃないと無理というレベルではないような気がします。

    山とんぼさんのお話では根利からのほうが走りやすいそうですが、根利方面は途中工事中区間があって、工事が休みの日とか早朝は通過出来るけれど・・・という事でした。

    皇海山は鋸11峰を越えて登るとカッコイイ登頂になるのですが、あの山深さを目の前にするとやはりビビリます。

  7. mattyan のコメント:

    亀三郎さん、こんばんは。

    ブログが正常表示されてる旨報告いただきありがとうございます。まずは一安心です。

    林道はリンゴさんへのコメントでも書きましたが、普通の車でもゆっくり走れば大丈夫です。
    確かに一時間以上もあの砂利道を走るとなると心が折れそうで、「皇海山いくぞ!」と強く思わないと厳しいかもですね(^^;
    でも大丈夫、コツコツと社山に登っちゃう亀三郎さんですから、きっと栗原川林道も大丈夫です。
    ガードレールの無い所で車ごと落っこちちゃう箇所も確かにありましたが、そこはゆっくり通過すれば全然OK。
    林道から山登りが始まっていると思えばきっとうまくいきます。

  8. mattyan のコメント:

    ケン坊さん、こんばんは。

    足尾から登る皇海山は自分も完璧に諦めてました。
    庚申山荘に一泊して誰かと一緒に行くという選択もありますが、そのルートとてかなり体力のある若者がヘロヘロになって下山していくというのを良く目にするので、こりゃ駄目だと思っていました。

    今回のルートは栗原川林道攻略が作戦{なんじゃそりゃ(笑)}の6割位を担っているような気がします。
    皇海橋から皇海山のピストンだけならば標高差800mで、ほぼ登りっぱなしの下りっぱなし。
    志津乗越からの男体山+100mなので登山としてはさほど大変ではないと思います。
    道標は沢山設置されていますが、時折沢筋でルートが不明になることもありますが落ち着いて進めば正しいルートはすぐ解ります。

    ケン坊さんにもあの山深さを是非味わって欲しいと思います。
    特に紅葉は素晴らしいとの事ですよ。

  9. TO☆9 のコメント:

    こんばんは⌒o⌒*
    行かれたのですね~。自分たちが行ったときは、鋸から攻めガスが出る前で展望ちょ~かっこいーっとハイテンションになりました!
    また鋸は行きたいなぁと思ってます。できれば~足尾から~のでと・・・・

    ビールで乾杯!おめでとうございます。 お疲れ様でした~。

    • まっちゃん のコメント:

      トクちゃん、こんばんは。
      覚えてますよぉ。セローさんとお忍びでの山行。

      鋸山はホント良い山ですね。
      鋸11峰憧れますが、自分はちょっと無理だなぁ。
      トクちゃんならまったく問題なし。報告お待ちしてます。

  10. なお のコメント:

    皇海山GETおめでとうございます♪
    僕も群馬側から登りましたが、変化があっていいコースですね。
    いつかまた歩いてみたいです。

    >神々しくも見える
    僕もそう感じました。山がオーラが出してるんですよね(笑)

    PS
    計算間違えちゃいました^^;

    • まっちゃん のコメント:

      なおべぇさん、こんばんは。

      そういえばなおべぇさんも群馬からと仰ってましたね。
      栗原川林道はオフロードバイクでも楽しそうなので、次回行くときはバイク&ライドで行きたいです。

      計算は、今度5桁同士の掛け算にバージョンアップする予定です。
      {それじゃ誰もコメントできんわな(爆)}

  11. いわっ歩 のコメント:

    こんばんは。

     鋸山のその姿らしい、スリルのある岩やロープの道と眺め。
    皇海山に負けない、魅力のある山のようですね。
     「林道から山登りが始まっていると思えばきっとうまくいきます。」
    とはいえ、林道22Km標高730mのドライブ、やはりハードル高そう(^^;)

    • まっちゃん のコメント:

      いわっ歩さん、こんばんは。

      確かにここは林道アプローチがネックですね。
      山は一人で歩いても怖く無いですが、この林道で車が突然動かなくなったらどうしようと思いました。
      でも大丈夫。往来密度は超低くてもやがて下山の人が通ってくれるから。
      そんな感じの林道でした。

  12. セローG のコメント:

    ぢみさん おばんです。行ってきましたね 皇海山 鋸山 いい山でしたでしょう。私が行った時は 梅雨の真っ只中にして 快晴に恵まれ 屈強なアシスト同行?で 楽しい山旅でした。今ぢみさんの 文章写真を見て 改めて そうだそうだ あそこだと 再確認して楽しませてもらいました。今度は御一緒にどこぞのやまをお忍び山行いたしましょう その時は しっかりアシスト願いますw

    • まっちゃん のコメント:

      セローGさん、こんばんはです。

      いやぁ行って来ましたよ。
      セローさんの皇海山報告見て刺激受けました。
      トクちゃんがセローさん歩くの早いって書いてあったので、セローさんの日頃のサイクリング鍛錬の成果アリと睨んでます。
      自分ではアシストどころか、アシストして貰ってロープで牽引して貰わないと追いつけないかも。
      何はともあれまた機会があったらバイク共々よろしくお願いします。

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