北八ヶ岳方面 二日目 蓼科山

 車中泊初日というのはなかなか熟睡に至ることは無い。流石にある程度の回数を重ねてだいぶ慣れてきたとはいえ、毎回セッティング的に何らかの反省点が残るものだ。だが、初日の睡眠不足解消の為に二日目以降は自然と良く眠れるようになるといった皮肉な結果にもつながる。

 実は車を停める場所が結構重要で、自分の場合はトイレが近いので必然的にトイレの至近距離にある場所が好ましい。だが一番重要なのは”平ら”な所を見つける事なのだ。整備された道の駅の駐車場でもなかなか水平な箇所を見つけるのは難しい。適当に妥協してしまうと、長い夜に微妙な斜度に体をひねりながら悶々とする事になる。頭が下に下がるのは論外だが、左右の僅かな傾きでも人間って案外敏感に感じ取る事が出来るものなのだ。もっとも、そんな理想的な場所にありつけるのはそうはなかなか無い。寝床の下に敷物を入れて角度調整などの涙ぐましい努力が必要になるのだ。ホントはそんなことを気にせず豪快に熟睡できる図太さがあれば良い話なのだが、自分はそこまでの気力は持ち合わせていない(*´Д`)

 前日のスポット予報では朝のうちガスが出て9時くらいから晴れるという予報だった。事実、日の出直後にカーテン越しに周囲を眺めるとガスに覆われていて何も見えない。仕方ないなと、6時出発の予定を少し遅らせるべく小一時間眠りをむさぼった。

 やがて、周囲の車中泊組の動き出す物音や麓から上がってくる車もぼつぼつ増えだしてきた気配。外を見るとなんとガスはすっかり消えて快晴の登山日和になっているではないか。慌てて片付けをして朝食のパンに齧りついた。
 おいおい、こんなに晴れるなら歩き出しはどうせ景色もあまりないだろうし、予定通り6時出発にすりゃ良かったかなと自分にぼやきながら慌てて準備して6時40分頃に出発した。

今回、GPSのログを間違って消してしまった( ;∀;)のでルートマップは無し}


朝のうち曇り空の予報が嬉しく外れた快晴の大河原峠


さぁ、行きますか

 序盤は幾らかきつめの登りもあったが、段々と緩やかとなる。あまり苦労もせず佐久市最高地点を経て蓼科山荘へと向かう渡り廊下のような箇所へ至った。今日の標高差は僅か430m程度。それも終盤の蓼科山荘からは残り170mの急登だが、前半の260mは日差しが遮られた樹林の長い距離で登るのだから楽ちんだ。

 北八ヶ岳も八ヶ岳も火山で出来た山域なのでどこを歩いていても岩のゴロゴロが必ず出てくるようだ。大河原峠からの登りも岩は幾らかあったが、まだこの辺では気になるレベルでは無かった。


地元高原山の矢板市最高地点と一緒で特に眺望も無し


縞枯れの隙間から蓼科山が顔を覗かせる


切れ間の眺望地点より形の良い八ヶ岳がスッキリと見えた

 蓼科山荘へ到着。会津駒ケ岳でも思ったのが、やはりメジャーな山は小屋そのものの存在だ。この後山頂の肩にも山頂小屋があるのだが、営業的に見てどうなのだろうかと要らぬ心配をしてしまう。コロナで人の出が少ない昨今はともかく、本来はこの程度の登山者の数で収まっていないのかもしれない。


蓼科山荘から山頂を目指す

 蓼科山荘の広場の隅の木陰に身を寄せ、汗を拭ってしばし休憩。山頂までの急登に備えた。
 残り標高の170mは大きな岩の連続する区間で、上のほうに行けば行くほど斜度もきつくなり、歩くのが大変になってくる。救いがあるのは小石が殆ど無いため浮石に乗って転倒などの可能性が低いことだが、それでも気は抜けない。


大きな岩の並ぶ道を登っていく 後半段々斜度がきつくなる カメラはザックにしまった

 キツイ登りも一気に空が拡がるとそこは山頂の肩にある蓼科山頂ヒュッテ。山シャツやグッズなどの販売がこのロケーションでも行われているのが自分のような田舎者ハイカーにとっては目新しい。


山頂直下の蓼科山頂ヒュッテ

 山頂ヒュッテより一投足でいよいよ山頂へ到達だ。
 広々とした火口原に拡がる荒涼とした溶岩。360度の眺望をぐるりと囲む南、中央、北。日本の全てのアルプス。
 東には大河原峠からもよく見えた浅間山。南側には明後日登る予定の北横岳がどっしりと控えており、その先には八ヶ岳の主峰たちが織り成すように連なっている。恐らく今まで登ってきた山の中でベストと言って良いかもしれない眺望に酔い知れる。火口原の周囲を約1/3周もしただろうか。せめて山座同定がもう少し出来ればと残念であった。


そして山頂へ 360度抜けの良い眺望だ


手前は明後日登る予定の北横岳 右下に見える建物はロープウェイの山麓駅


白樺湖と霧ヶ峰 最高地点が車山


中央アルプス 北アルプスとぐるりと丸見え


中央は槍ヶ岳 流石尖がってるなぁ


方位盤 到達した時は密だったので立つのをあきらめた


こちらは恐らく浅間山方面


再び方位盤


さて下山しよう


道標もなんとなくキリっとしている気がする

 蓼科山荘までの岩場の急斜面は下りも要注意だ。時間的に登ってくる人が段々増えてきたので、場所によっては歩きやすいルートを譲り合ったりもするし、勢いあまっての転倒も気にしながらなので要する時間は登りとさほど変わらないかもしれない気がする。おじいちゃんとまだ小さなお孫さんがヘルメットを被って登ってきた。思わず『頑張って』と声をかけた。

 難所通過で一息、蓼科山荘前でまた休憩を取り、今度は天祥寺平へ向けて降下を始めた。
 やがてガレ場になる。浮石に乗る可能性が高いので慎重になるも更に斜度も加わり苦しめられる。
 このルートは基本的に沢沿いに下っていくのだが、場所によっては沢の真ん中を下るところもあり大きな岩の間を縫いながら、岩の頭を渡りながら時折出てくる浮石にも気を付けながらで思いのほか苦戦した。

 よく見ると脇に踏み跡が見え隠れしている。岩を嫌う人達が歩いたのは明白だ。実は大河原峠からの登りでも一部そういう区間があったが、正規登山道以外を歩いて道を広げるのはこういったメジャーな山では如何なものかと歩かずに登ってきた。
 だが、いつまでも果てることのない拷問のようなガレ下りにとうとう屈服して踏み跡を自分も追ってしまった。


ガレ場に苦しめられながら下って振り向いた蓼科山


ここから北横岳に登ることも出来るが、お楽しみは後日へ

 ようやく天祥寺平へ到着。本来ならここから亀甲池、双子池と巡り最後に双子山を乗り越して大河原峠へというプランだったが、スパルタンなガレ下りに精神的に参ってしまったのと強い日差しに負けてルート短縮を決定。僅かな木陰を探して大休止だ。気温はさほど高くないので日陰にじっとしている限りであれば案外過ごしやすい。風が少しでもあれば更に快適。だがそれも一歩太陽の日差しの下に飛び出すと、シャツを着ているのに背中がじりじりと焼け焦げていくような感覚。自分はこれが一番辛いなぁ。お日様は冬のポカポカ陽気が一番だなぁと思う。せめて、歩いている時は曇っていて眺望地点だけ晴れてりゃいいんだけどね(爆)

 北八ヶ岳の旅は始まったばかり、ここで無理をしても後が楽しく無くなるだろう。ともかく一刻も早く車に帰ってクーラーガンガン利かせて自販機(結局麓まで小一時間走ってやっとありつく)でコーラゼロを買って飲むのだ。


暑くてかなわない 先もあることだし今日はおしまい


越えていく筈だった双子山がちょっと恨めしい


とは言ってもやはり照り付ける日差しにゃ勝てない 頭の中はコーラゼロコーラゼロ(笑)

 大河原峠へ戻ってみると駐車場は満車で路駐の車まであった。平日なのに凄い人気だ。中には峠の雰囲気だけでも楽しもうと避暑がてらお弁当を広げている老夫婦も見られた。良い趣味だなと思った。

 明日歩く美ヶ原に至るには大河原峠から白樺湖に向けて降りるのが最短だが、残念なことに峠から先は通行止めとなっている。しかたがないので佐久に一旦降りて遠回りとなる。まだ時間も早いので軽くドライブといったところだ。

 途中で食料を調達しながらほぼ松本あたりまで走り、今度は美ヶ原公園沖線という山岳道路を延々と登っていく。終盤の武石峠手前あたりから車窓に拡がる胸をすくようなアルプス、眼前の広大な放牧場が織りなす風景もなかなか素晴らしい。この景色を目当てだけで走っても良い道路だ。

 道路は砂利道となり美ヶ原山頂の王ヶ頭まで続くが、一般車は『美ヶ原自然保護センター』の少し先でゲートに遮られる。その先は関係者のみで、王ヶ頭ホテルや山本小屋がマイクロバスで送迎してくれるようだ。

 美ヶ原へのアクセスは、ビーナスライン経由で『道の駅 美ヶ原高原』に車を置いてというパターンが殆どであろうが、王ヶ頭までの登り30分を苦にしなければ、こちらの『美ヶ原自然保護センター』もお勧めである。
 併設の売店(17時頃終了)と24時間トイレがあり一般登山者のみならず、車中泊愛好者にとってはこの時期標高の高い涼しい箇所として人気が出始めているという。

 一方、『道の駅 美ヶ原高原』の方は最も標高の高い所にある道の駅として有名であり、車中泊者が急増。中にはマナーの悪い人がいてゴミや騒音、長期間の駐車スペース占拠などで暗に車中泊禁止となっているらしい。


王ヶ頭の北側お膝元にある『美ヶ原自然保護センター』駐車場が今日の車中泊地だ


駐車場より北側の夕景

 暑かった夏の一日にもオレンジ色の優しい夕方の光が差し込んでくる。
 日没後に食事を終えて王ヶ頭方面をふと見るとホテルの送迎バスが坂道を遠く小さく登って行くのが見えた。他に灯りも少ない山肌をのろのろと登って行くその場違いな小さなバスからこぼれてくる車内灯の灯り。さながらトトロの猫バスみたいだなと思うのであった。

 日没頃から車中泊組が増えてきたが、中には到着するなりギターをかき鳴らして歌う若者がいた。
 これはちょっとうるさくてかなわんなぁと思っていると、ひとしきり歌い終わって帰っていった。降り注ぐ星空のもと、ギター一本で歌いにわざわざ来るなんて案外ロマンチストじゃん。
 車中泊の夜は各々色んな思いで、色んな楽しみ方があっても良いのだ。他人や社会、自然環境に迷惑をかけちゃいけないけどね。

 今夜もきっと冷えるだろう。念の為に持ってきたインナーシュラフを早速拡げて潜り込むと、やがて蓼科山の疲れに誘われるようにして眠りにつくことが出来た。

概略コースタイム

大河原峠発(06:43)-蓼科山荘(08:15)-山頂(08:45)-下山開始(09:15)-蓼科山荘(09:45)-
天祥寺平(11:15)-休憩後行動再開(11:45)-大河原峠着(12:28)

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北八ヶ岳方面 二日目 蓼科山 への2件のフィードバック

  1. リンゴ のコメント:

    プリン型の蓼科山からの展望は最高・・・との情報通り、見渡す限りの絶景をGET出来て幸先良い山旅となりましたね。
    翌日の美ヶ原、翌々日の北横岳・・・もっとあるのかな?続きが楽しみです。
    それにしても、風景写真はニコンと言われる通り、写真のキレが最高じゃないですか。
    自分が撮ると空と山などの明暗差が出ちゃって残念な画像の量産になってしまいます。

    • まっちゃん のコメント:

      遠くから見ると実に形の良い山で、まさにプリン型ですよね。
      山頂は巨大火口跡、そこを縦横無尽に歩けるというのがまた面白かったです。

      今回はやはり天気が良くて光の具合も助けになって良い感じで撮影できました。

      が、

      実は翌日。とんでも無く寂しい状況に。
      知らぬ間に設定が変わっていて、悲しいかな老眼ですぐに気づく事が出来ずに下山までそのまま。
      頑張ってパソコンで修正試みるも己の技量を遥かに超えた惨状でちょっとがっかりです。

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