黒岩山前日

 未踏の栃木百名山が二座ある奥鬼怒エリア。手前にある鬼怒沼山とて夫婦淵駐車場から往復9時間程度かかるのだから、日帰りで黒岩山を踏んでくるのは自分の体力気力では事実上不可能だ。
 それならば、日光澤温泉に投宿して早朝から行動を開始すればと考えた。一日の行動時間としては夫婦淵Pから日光澤温泉までの一時間半が割愛されるだけなのだが、極めて早朝に車で夫婦淵Pに着いていなければならないことも考えると、このプランの意義は絶大。また、温泉自体にも興味があったので一石二鳥である。

 土曜日から5連休と、我が職場にしては珍しく世間並のSWとなった。この機会を逃すまじと前もって予約していた温泉へいざ出発だ。チェックインが1時からなので、それにあわせるようにのんびり9時頃に自宅を出発した。

 台風の進路にやきもきした数日前がウソのような好天のもと、霧降高原へと車を走らせる。過日の大雨台風で未だ鬼怒川温泉から北のエリアで通行止めになっているらしい。会津方面に向かう場合や川俣へは大笹牧場を抜けて栗山へ降りるのが迂回路になっているのだ。SW真只中なので観光客も多いが、トラックが走っているのも沢山見かけた。

 昼飯は以前から通過する度に気になっていた「やしお」というお店で『旬の』ちたけうどんをいただく。スマホカメラの発色が悪くて写真掲載は無し。味は・・・普通に美味しかったが再訪するほどでは無いと自分は感じた。

好天故、六方沢橋展望台より一枚 何となく気になっていたお店 いろいろ展示されている

 夫婦淵駐車場は既に2/3が県内外の車で埋まっていた。流石はSWだ。前回はここより送迎バスに揺られて訪れた加仁湯温泉を楽しんだものだが、今日は遊歩道デビューである。

旬の味と言われちゃ頼むしか無いね 夫婦淵駐車場よりスタート まずは橋を渡り

 遊歩道と名がつくだけあって流石に整備状況はきっちりしている。歩道専用の立派な橋が掛かっていたが、メンテナンスや耐用年数を考えると中途半端なものを作るよりコスパは良いのかもしれない。『歩く』観光客は奥鬼怒温泉郷にとって重要な顧客なのだ。
 バス送迎で稼ぐ八丁の湯や加仁湯からは若干の異論も聞こえてきそうだが、両温泉に行ったとしてもせめて帰りはこの自然溢れる散策路を歩いても良いのでは思った。

ここが遊歩道入口 沢沿いにハイキング気分 ハイカー専用なのに立派な橋が

 ちなみに、この橋が架かる下に流れるのは先日茨城で決壊したあの鬼怒川の上流である。河原を見る限り特に変化は無いように感じたが、やはり所々で崩落跡が見られた。遊歩道のほうは平成25年2月の地震で大規模なガケ崩れがあったようで、ガケの近くを避けるようにして川沿いに新しく歩道が設けられている。今回の豪雨によるであろうと見られる凄まじい崖崩れの現場も数か所あった。川が増水すればそんな整備もひとたまりもなく、遊歩道はまた付け替えになるかもしれない。奥鬼怒温泉郷にとって遊歩道は、ライフラインのスーパー林道の次に大切な資源なので、関係者が自然の脅威に頭を抱えるのを想像するに難くない。

やはり崩落跡があるようだ 紅葉の季節はきっと美しいだろう 遊歩道脇が激しく崩落
旧歩道の外側にもう一本柵が設けられている 対岸も激しく崩落  

 まもなく、コザ池沢の終端にある滝へ到着した。今回の下山ルートの遊歩道着地点として此処を想定している。
 いくつかの記録を見ると、此処より沢の右岸を巻き、尾根を伝えばスーパー林道の標高1430mのヘアピンカーブ地点に最短で到達出来るのだ。その逆で下山時に此処を使おうと考えていたのである。今日のうちに着地点の確認だけはしておこうと思い偵察をしてみることにした。
 滝の少し先に尾根の末端があるが、そこは無理。少し手前に比較的取付きやすそうな場所があり、あたりを見回すと5mm位の細引きロープが垂れ下がっているではないか。釣り師が沢に降りる為に往来しているという情報もあるので場所はここで間違いない。

 滑りやすい泥の斜面を登り切ると上部はテラス状になっており、情報通り沢に降りていく踏み跡は濃い。尾根に乗るためにはと、上を見るも剥き出しの岩が行く手を阻んでいる。地形図上では遊歩道ぎりぎりに描かれている崖地記号だが、尾根末端は二段の岩場になっていた。右手を巻くようにして進むとようやく先の方から尾根に突き上げられそうな雰囲気になってきたが、その手前が少し崩れ気味で通過できそうにもない。水分を充分に含んだ足元は案外脆く、大した高さではないが滑ると沢まで行ってしまうかもしれない。ここはおとなしく撤退すべし。下山時にここを使う案はあっさり消滅だ。先人の記録があるとは言え、地形図を眺めてもあまり良い感じの下降点とはいえないので自分的には納得である。所要時間的には最短のこのルートが一番なのだが・・・となると帰りはあそこを経由して○時間プラスになるな、とこの時点ではまだ翌日に更なる計画変更となることを知らない自分であった。

偵察地点の滝 向かいの壁を登ると 岩を迂回するにも無理だな

 遊歩道には趣ありげに倒木がかかり、色づくさまもまたよし。対岸を見ると猿の集団が下流へと移動中だ。
(写真が下手&シャッターチャンス逃しまくりだが雰囲気だけ=下写真)

 暫くして八丁の湯に到着した。外から見る限り、ここもなかなか雰囲気が良さそうだ。加仁湯もそれなりに良いとは思ったが、やはりもう少し鄙びていても良いのではと正直感じたものだ。次に家内と来るのはこちらかなと思った。一人あたり¥2,000追加するとログハウスの部屋に泊まれるというのも魅力だ。

遊歩道に戻る 猿のパーティが移動中 八丁の湯もなかなか趣あり

 見覚えのある加仁湯温泉を通過してさらにその先へ。途中、橋が流された箇所で法面を大規模に工事していた。吊り下がる幾人もの職人達が巧みなロープ捌きで上へ下へと忙しそうに働いていた。

 緩やかな坂を登りつめるとそこが今日の宿である日光澤温泉であり、そこより先にあるのは登山道のみである。
 ホームページで見てはいたが、山小屋風のその佇まいに期待が膨らむ。

加仁湯通過 橋が流されたようで法面工事中 日光澤温泉へ到着

 玄関脇の大きな鐘を撞くと中から案内の人が出てきた。受付を済ませて部屋に通されると、一人では充分な広さだ。他にもう少し広めの部屋もありそうだが、この部屋で二人でもまったく狭くはないだろう。
 ゆっくり歩いて来たがまだ3時にもなっていない。今日は温泉堪能が目的だから何はともあれひとっ風呂だ。

 風呂は内風呂一つと露天が二つ。夜7時から9時は男女内風呂がチェンジし、露天が女性専用となる。
 泉質は硫黄臭のする濁り泉であり、好みのどストライク。温度が少しぬるめに感じたが、元より高温が苦手な自分には丁度よい。露天風呂で一段高い所にあるほうは泉質が異なり濁っていない。源泉が異なるということだが、同じ場所の温泉でこの差が出るのかがちょっと不思議であった。また上の露天風呂のほうが温度が高めに設定(加水量で)されていたので上下二つの露天風呂を楽しむのにメリハリがあって良かった。

 「缶ビールは外の自販機でどうぞ」の張り紙を見て、宿のサンダルを履いて早速買ってきた一本目を開ける。殆ど疲れなかった今日の歩きであったが、やはり温泉に入って飲む一杯は殊の外美味い。あぁ極楽。

 窓辺にもたれ外行く登山者を眺めたり、沢音を聞きながら寝っ転がっていると時間はあっという間に過ぎていく。更に、なんとここまでsoftbankの電波が来ているようで、我がワイモバイルスマホも活躍だ。
(八丁の湯付近から日光澤温泉にかけてau、docomo、softbankの圏内らしい。各社の通話エリアマップを見ると、奥鬼怒にぽつりと飛び地のように描かれているので確認出来る。また、docomoのアンテナは加仁湯の裏手にあるのを見た)

 いい加減体が冷えてきたのでもう一度風呂、そしてビールも二本目だ。いやはや極楽。時計を見るともうすぐ夕食の5時になろうとしている。つまみに伸ばす手を停めていまかいまかと待っていると、部屋の外で「お食事準備出来ました」とお呼びがかかる。

 大広間に通され、案内を乞うて着席すると、中高年夫婦や数人のグループが目立っている。自分が腰掛けた対面に既に座っていた同じくらいの年齢であろう男性はやはり単独で、尾瀬方面からテントで泊まりながら到達したこの温泉に予約無しの飛び込みで投宿したという。酒はもう終わりらしく、豪快にご飯をほうばっていた関西弁の彼はかなり山好きそうな雰囲気であった。自由闊達に山を楽しめるのは心底羨ましいものだ。
 また、隣には宇都宮から来られた親子。娘さんはまだ小学校の三年生かそこらであろうか、お父さんとハイキングと山小屋を楽しみにやってくるなんて良いなぁと思いながら、料理を味わいながら頼んだビールで喉を鳴らす。
 最後の方は自分も軽く酔いが回ってきて、このお父さんと関西弁の人と三人で栃木B級グルメの餃子の話題になったりで、お嬢ちゃんつまらなくてごめんね。

部屋から 風呂二回入った後=ビール二本目 質素だが充分

 食事も終わり日常生活ならまだまだ会社に居る時間だが、今日はもう明日に備えるだけだ。露天風呂をもう一度堪能して温泉はおしまい。早く小屋を立つ人の為に、朝食をおにぎりにしてくれるというので自分も申し込んだ。明日は思い切り早立ちする。個室とはいえ、壁一枚で隣室の会話が聞こえてくるくらいなので、明日の朝迷惑にならないようにザックの整理や装備の準備を済ませて布団に潜り込んだ。

さらにこいつが加われば 食事も終わってもうひとっ風呂行きますか 朝食をおにぎりにして貰った

概略コースタイム

夫婦淵駐車場発(12:19)-偵察地(13:06)-偵察終了(13:25)-八丁の湯(13:55)-加仁湯(14:03)-日光澤温泉通過-
明日の登山道を少し覗きに行く-日光澤温泉着(14:15)

カテゴリー: 日光の山 パーマリンク

黒岩山前日 への14件のフィードバック

  1. 野球親爺 のコメント:

    こんばんは。
    奥鬼怒四湯のなかで変わらぬ佇まいを残しているのは日光澤温泉だけでしょうね。
    ここは水分補給もばっちりできますし、山登りの基地としては最適ですね。
    この連休は満室と言うほどでもなかったのでしょうか?

    なにかありそうな物語の続きを楽しみにお待ちしております。

    • まっちゃん のコメント:

      電気が来ていなかった頃はランプの秘湯的な
      味わいが合ったのでしょうが、今となっては電気もネットもOKという有様で、過日を知る人にとって見る影も無しといったところでしょうか。

      満室かどうか正確にはわかりませんでしたが、夕食の時にざっと20人位は居た感じでした。

      二日目のトラブル(予定変更)ですが、ご興味いただけるほど大したことではありませんのでがっかりしないでくださいね。

  2. Non のコメント:

     こんにちは。温泉宿でまったり中~のコメントを拝読して、おお~!と思っていたら、
    なるほど、目的地が黒岩山だったんですね。全く頭にありませんでした…
    (山名を見た後で栃百本を開いたほど ^_^;)
     本の紙面から相当山深そう~な雰囲気が漂ってきて、まっちゃんさんがどんな
    山歩きをなさったのか、続きを拝見するのがすごく楽しみです。うーん、渋いなぁ。

    • まっちゃん のコメント:

      温泉=極楽
      長丁場=地獄

      でした。

      というのは冗談ですが、マジに長距離で疲れました。
      でも、前泊に山小屋温泉というのはやはり精神的にリッチで良いですね。
      次回は普通の山小屋デビュー、そして可能ならばテントもデビューしたいところですが、
      いつになることやら。

  3. ケン坊 のコメント:

    こんにちは。
    鬼怒沼は過去に何度も言ってるのに”鬼怒沼山”は未踏のケン坊です。
    でも回数に免じて登ったことになってます...>苦<
    あぁそれなのにその先の黒岩山を目指すなんて吾輩には信じられません。
    (栃木百名山の目次は初めから×印を付けてます)
    そして日光沢温泉も庭先で小休止したことはありますが利用経験はゼロ。
    これまでは、渡り廊下の下を潜って鬼怒沼へ行くだけでした。
    確かに鬼怒沼へ行くにも本当は日光沢温泉を利用すれば、もう少し
    山歩きにゆとりが出来るかも...毎回、家を早く出て楽しむことなく
    ひたすら鬼怒沼をピストンするだけの自己満足の世界でした。
    次回が楽しみです。

    • まっちゃん のコメント:

      日光澤温泉への投宿は是非お勧めですよ。
      奥様を誘って是非行っていただきたいです。

      我が家では家内が鬼怒沼まで歩くのはちょっと厳しそうなので、
      泊まったとしても山歩きはできませんが、
      ケン坊さんと魔女さんならゆったりとした時間(温泉も山歩きも)が過ごせること間違いなし。
      変化球としては、下山後に4箇所のうちの何処かの温泉に泊まってから帰るというリッチな
      プランも良さげです。
      山歩きで疲れてきて温泉入って料理とお酒なんて最高!
      ゆっくり飲むなら加仁湯は候補に入れても良いかもです。

  4. リンゴ のコメント:

    日光沢温泉に宿泊して翌日の山行に備える。
    これ、ずっと憧れていました。
    ただ、自分の場合は鬼怒沼でのんびり、それだけで十分です。
    続編、楽しみです。

    • まっちゃん のコメント:

      日光澤温泉はリピーターも多いらしく、係の人に館内を案内してもらう時に
      「ご利用は初めてです?」と聞かれました。
      一度行ったらまた再訪したくなる、そんな宿でした。
      今度は積雪期に鬼怒沼スノーハイキングで行こうかなぁと思ってます。

  5. toku のコメント:

    お疲れさまです。
    積雪期に日光澤温泉にスノーシューで泊まりにゆくは、また行きたくなると思わせてくれます。
    鬼怒沼までは思いのはか、時間がかかります。甘くみた私がここにいます。ただ沼が真っ白の雪面になり、白い白根や燧はいい感じでした~。白い白根が沼に逆さに映るのをみてみたいと思って行ったのですけど。。。

    • まっちゃん のコメント:

      鬼怒沼までのあの登りはフラットの所が少ないので、案外苦戦しそうですね。
      雰囲気的にはワカンのほうが良さげ感じがします。
      上に行っちゃえば絶対スノーシューなんですけど。
      楽しみな場所が見つかりました。

  6. 亀三郎 のコメント:

    こんばんは
    加仁湯に泊まって(勿論 宿まではバス)
    そして 翌日 鬼怒沼山を目指す!!
    って 何年も前から 頭の中にイメージは出来てるのですが
    前泊しても 距離的に大変そう、、、と思い
    躊躇してる場所です。
    でも 日光澤温泉もいいですね!
    こっちのほうが 山に近くなる?しよりいいかも^^v
    せっかくのログなので
    ちょい読みで しばらく 楽しみたいと思います
    一気に
    全部 読んじゃ もったいない!! 爆笑

    • まっちゃん のコメント:

      加仁湯と日光澤温泉間は僅かですから、加仁湯から鬼怒沼山ピストンしてものんびり歩いて来れると思います。
      前泊八丁の湯、翌朝鬼怒沼山へ行ってきて加仁湯でもう一泊なんてのはどうでしょう。
      山に行った後の温泉&お酒は五臓六腑に染み渡りそう!

  7. 亀三郎 のコメント:

    こんばんは
    奥鬼怒で2泊、、、ううう、、、一瞬頭はよぎってますけど、、、
    それはそれで 2泊×2人 = 金額 が負担と、、、(^_^;)(^_^;)

    それはそうと
    日光澤温泉の部屋にかかってる
    ブルー系のチェックのシャツいいですね
    あんなの欲しいなぁと思ってたんです
    もしかして?? mont-bell?? 違うか

    • まっちゃん のコメント:

      そうですね。お二人様だとちょっとかさむかな。
      でも、亀財閥ですからどーんと太っ腹で。

      ブルーのシャツはモンベルじゃなくって、モーヘル・・・じゃなくって(汗)
      もっと更に名も無きブランドです。
      お洒落性ゼロだったら最強な自分です(*^^*)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA