-『GeoGraphica』+『カシミール3D』+『国土地理院地図閲覧サービスデータ』にて作成-
※上高塚山以北は一般登山道でない箇所が含まれています。参考にされる場合は自己責任でお願いします。
分県別「茨城の山」をめくっていると心に残る山の名があった。熊の山である。
茨城の山は低山が主体で道路も容易に切り拓くことが出来た為、植林は早い時期から成熟した感がある。
従って、熊にとって必要な豊かな広葉樹の森というのは自ずと少なくなり、彼らの出没も絶えて久しいという。
それだけに、熊の名を冠したこの名前が印象的だったのである。
今回はリンゴさんが早春に周回したルートを参考とし、少し足を延ばして西金駅までの縦走を計画した。帰りに自転車を使うことも考えたが、あえて春の里をぶらりと歩くのもよかろうと水郡線一駅の散歩付きである。
下小川駅の駅前には無料駐車場があるという情報を得ていたが、30台ほどのキャパシティーが休日にどうなるかは未知であった。駐車地にありつくべしと朝早く家を出発し、自分としては県外遠征の長距離ドライブであった。
駅に到着すると、先着車は一台だけ。ちょっと肩すかしを喰らった感じだ。静かな里の中のひっそりとした駅舎の佇まいに、思わず自分の浅ましさを恥じてしまうほどだ。
ゆっくりと支度を終えたら、盛金富士へ、さぁ歩き出そう。
駅の横にある広場の桜。路傍の菜の花。すべてがうららな春を満喫しているようだ。そして自分も歩き出す足の軽やかなこと。
登山口に差し掛かると、地域の方の気持ちが伝わる看板を見る。
足す必要も、引く必要もないシンプルな言葉だが、山頂を目指す者には丁度良い。
整備された階段の道をゆるゆる登るとやがて伐採で開けた個所に出る。
背中に拡がる境界尾根は、地図を見ると無名の三角点が点在する尾根。どこから取り付き何処へ出ればよいか見当もつかないが、時間が出来たらいつの日にか必ず歩き繋げたいものだ。
今日の関東地方は場所によっては25度を超える夏日になるという。遮るものの無い伐採地は上のほうに行くと斜度も急になり、滴り落ちる汗が尋常ではない。冬の寒い時期がコンディション的にベストな自分にはいささか堪える。
伐採地が終わると木陰になり再び階段が出てきた。木漏れ日の下、優しく吹くまだまだ冷たい風を楽しみながら足を止めた。
左手に谷を見ながら登り詰めるとそこが山頂。大きな石祠と栃木では見かけないタイプの山名版が迎えてくれた。
ありていに言えば、栃木の山は同じ方がこだわり続けて同じタイプの山名版を設置している傾向が強い気がする。僅かな経験しかないが、茨城の山は登るたびに違ったタイプの山名版を見ている。いろんな人がめいめいの自分の形で作ったものを設置すれば良いのではないか。そういった意味では茨城の山のほうがノーマルなような気もした
山頂からの景色は北側がスッキリ、南も良いがこちらは平野部が主体。遠く海も見えるらしいが、今日は生憎の春霞故に遠望は効かない。
南に向けて下山を始めるとほどなく黄色ビニールテープの”休憩所”と書かれた個所に着いた。久慈川の景色が良い。比較的勾配のキツイこちら側から登る場合は、まさに良き休憩所となるであろう。
下山を終えて最後は作業廃林道を経て集落へ出ると、たまたま出会った農家の人に声をかけられた。
「もう登ってきたの?早いね」
ええ、これから熊の山に向かいますと、会釈をして別れる。
平山橋を渡り、振り返る盛金富士。その名前に偽りはないようだね。裾野から形よく拡がる姿は紛れもなく里の富士山だ。
一旦国道を挟んで細い車道に進むと暫くは住宅地の中を進む。でもこれがまた凄い事になっている。何がって、所々に見事な桜の樹があったり、庭の木も色とりどりの花で埋め尽くされていたりする。ここに住む人達は花の中で暮らしているといっても大袈裟でなかろう。ちなみに下の写真の桜の大木の下は広場になっていた。気が向いたらちょっと外に出てお花見なんて贅沢なことが出来ちゃう。羨ましい限りだ。
住宅地の最奥から徐々に山道となっていくが、序盤はなだらかな散歩道の雰囲気である。事実、向かいから降りてきた手ぶらの夫婦は朝の散歩帰りに見て取れる。
261.3m三角点を通過すると、やがて鬱蒼とした林内を繋ぎ、熊の山のふもとへと回り込む。
事前に詳しい予習もせずに来たものだから、立派な鳥居の向こうに山頂があるという事を知らずに高塚山の道標に一旦引き込まれてしまった。徐々に高度があがり尾根が近づいてきた頃におかしいなと地図を覗くとありゃりゃ。これじゃ行き過ぎだ。
鳥居まで戻ると丁度先行者が階段を登るところ。いきなり現れた後続者にさぞびっくりしたことだろう。
急な階段にすっかり息もあがった頃、開けた山頂へ到着である。
水戸から来られたという先ほどの先行者の方としばし情報交換。いにしえの金山に由来する「金」の文字が頻出する地名の話など、そういえば確かに盛金、西金、金砂、ちょっと離れた所で栃木の大金。これはちょっと離れ過ぎかな。
山頂を充分に楽しんだ後は、北へと高塚山を目指す。こちらは一般的な登山道ではない雰囲気だが、道型はしっかりしており迷う要因はほぼ皆無。よく歩かれている里山である。
恐らく途中に道標か何かがあった筈なのだが、見落としてしまったようだ。このまま行くとルートミスになってしまう。後在所集落へ下っていく作業道痕へ別れを告げ、石板のある小尾根を末端より直登するとすぐ管理道に飛び出した。突き当りは熊の山からもよく見えた電波中継所だ。
裏手の山を一登りすればそこが三角点ピークの筈。どこから取り付こうかと物色すれど、施設の裏手に踏み跡あり。
一投足で上高塚山へ到着した。
樹に覆われて眺望は殆ど無いが、静かで穏やかな自分の好きなタイプの山頂。ザックを降ろして食事をしながら心ゆくまで静かな久慈の里山の頂を堪能する。麓を通る自動車やバイクの音。ちょっと不器用な鶯の鳴き声も何処からか聞こえてくる。里山ならではの風情が心地よいのだ。
帰路は西金へと辿る道。地形図に引いた行動予定線通りに歩かなくても、点線道があるのでそちらが楽ちんだ。ここまで歩いてくる間にいくつもピークを巻く道があって楽をしてきたが、唯一後悔したのは下高塚山を踏まなかったことである。
下高塚山は上高塚山の南方に位置するほぼ同標高の無名峰であるが、そのピークに名があるという事前情報を得ていたらまんまと巻道に甘んじるということもなかったろうにと後悔の思いが残った。
標高200mのコルからは、登山道の痕跡のような破線道は南に向かって下っていく。ここで道に別れを告げ、自分の予定線にようやく復帰。踏み跡も完全に消え、ちょっと煩い藪が出てきた。今日はずっと小ぎれいな道ばかりを歩いてきたのでいささか消化不良気味だったから、藪をかき分けるのも楽しい。
239mPからの下りは地図で見るほど簡単ではなく、少し進路角を振りつつ神経質な斜面を安全な所を探しながら降り始める。やがて尾根形が見えだすとあとは順調。共同アンテナから先は幾らか踏み跡が見え隠れし始めた。たまに往来があるのだろうか。
下降を続けると植林地の中にイワウチワの群生地があった。林内ははっきりとした踏み跡が花を避けてつけられていたので、きっと花好きの人達の穴場になっているのだろう。
群生地よりわずかに下ると立派な石祠のある広場に出た。当初、ここより更に西に下る予定であったが、最後に川にぶつかるのと、偵察や事前調査不足故にどんな所に着地出来るか予想もつかない。計画的には消化不良感もあるが、目の前の濃い藪に突っ込むより下に延びる参道を素直に降りようじゃないか。
鳥居の更に下は・・・
民家の裏庭に出てしまった。
それにしても・・・
家の裏手に鳥居があって、山があって、そこに石祠があるのだから実に豪気なものだ。
家人に気づかれぬよう、こっそりと庭先をお邪魔して道路へたどり着いたらほっと一息。
そして、そこにはむせかえるばかりの春の息吹の里の景色が拡がっていた。
西金駅からは久慈川沿いの鄙びた感じの道を行く。ともすれば、時に忘れ去られたような感じさえ受ける、長閑という言葉がピタリと当てはまる集落の軒先や踏切の向こうに映る風景を感じながら歩くのが楽しい。
踏切を渡り、道が線路の東側になると幾らか荒れてくるが歩くのにはまったく支障なし。やがて湾曲する久慈川と線路、そして国道118号を一挙に望めるポイントが見どころ。更に進むとやがて舗装路へ接合するが、入り口の掲示には”崖崩れの可能性があるため通行止”と書かれていた。
見た感じそのような危険個所も無かったが、かたわらに立派な国道があるため、利用する人も絶えて久しい旧道がまさに自然に還りゆく一つの時期を垣間見た気がした。
線路脇の集落沿いの小さな道をなおも進んで行けば、昼寝の犬に吠えたてられた。それもたった一声だけ。
滅多に見知らぬ人も通らないだろうに、ザックをを背負った奇異な人影にきっと驚いたのだろう。
でも、一声だけとはね。「ちゃんと吠えたからね。眠いんだからさっさと行ってよ!」と言いたげだ。
車の往来がある道に出てもなお長閑な風景は変わらず。帰りにこのルートを選んで本当に良かったなとしみじみと思った。
概略コースタイム
下小川駅発(07:34)-盛金富士登山口(07:50)-盛金富士(08:26)-平山橋(09:04)-熊の山登山口(09:22)-
261.3m三角点(09:47)-熊の山(10:23)-休憩-行動再開(10:51)-上高塚山(11:23)-昼食休憩-
行動再開(11:42)-踏み跡途絶える(11:59)-239mP(12:11)-石祠の広場(12:39)-車道へ(12:48)-
西金駅踏切(12:56)-下小川橋(13:33)-下小川駅着(13:58)
カシミール3Dデータ
沿面距離:14.3Km
所要時間:6時間24分
盛金富士、熊の山、早速歩かれましたね。しかも西金駅まで。
って、そこから歩いて下小川駅まで戻ったんですね~(@_@)
昨年は熊の山から下高塚山~上高塚山と素直にピークを踏みました。
今年は下高塚山を巻いたばかりに集落へと下りてしまいルートミス(^^;)
いずれは西金駅まで歩き通したいと思います。
里山ののどかな風景がいいですね。
リンゴさんの直近の記事に刺激されて後追いさせていただきました。
それにしても、久慈の山も案外良い雰囲気だと思いましたが、
やはり宇都宮からのアクセスが遠いです。
どこぞの道の駅にでも車中泊して低山の境界尾根繋ぎ縦走なんてのを
やってみたいなぁと思いました。
地形図を見ると山名は記載されていないのですね。
「熊の山」と「熊野山」とではまったく思い浮かぶものが違う感じがして面白いですね。
今の時期、標高の低い所を歩くと花粉症の症状が出てしまってまっちゃんさんのような歩きができないのが残念です。
かといってもう少し経つと暑さで低い所を歩く気がなくなっちゃいますね。
結局「熊」に関する答えは何一つ得られませんでしたが、
信仰上の由来か何かなんでしょうね。
外山で罰当たりの自分の花粉症もどきですが、
どうやら風邪だったようで、その後花粉に反応してません。
症状が出る人は確かにこの時期植林地歩きをするのは
地獄ですね。
自分は暑さに耐えられるのはあと一か月位かなぁ。
夏場は涼しそうな尾瀬に今年こそチャレンジする予定です。
(と言いながら今年もオオカミ少年になってしまうか>自分)
こんばんは
相変わらずまっちゃんの行動はコスパが良いんですね~
ケン坊の2~3回分を一気に歩いちゃう>笑<
逆にレポはビシッと1回で明瞭に纏めて...ケン坊は
何回かに分けて引き延ばし作戦?
やはり茨城の山は遠いですか? 7:30に歩きだすのは
最近のケン坊には至難の業です...>笑<
いやいや、本当はレポは分けたい所なんですが、
最近いろいろと忘れっぽい事が多くて、
(職場で電話かけて咄嗟に相手の人の名前が出てこないことが・・・)
覚えている間に書いちゃおうというだけの事です。
この間、奥久慈のイワウチワの話を伺った直後。
をぉ、これは、やっぱり行かねば!! と思ってたところに
出たぁぁぁ、奥久慈のイワウチワですよ。ヽ(^o^)丿
そして、奥久慈の山域にはクマが生息していない。そのお話は
とっても興味深いです。
人間が、その土地の生態系をね・・・って気持ちになりながらも、
でも、信仰の対象として、昔から山を大事にしてきてたんだなぁ。と思うと
やっぱりとっても嬉しいです。恵みをたくさん受け取ってますからね~。
思い切り春らしい山頂からの景色。花咲く里山の景色。そして、桜の大木。
やっぱり春っていいですね~。
結局、何故熊の山だったかという事は謎でしたが、
まぁ、熊が居ないなら茨城の山はどこでも安心して歩けるかな、
という思いは残りました。
とか言いつつ、茨城県内のどこぞの藪で、
○○年絶えて久しい熊出現。
不運にして山中を彷徨していた栃木のハイカーが被害に!
なんてなったら嫌だなぁ(;´∀`)
それにしても春の里って良いですね。
生命のパワーを感じます。